Claude OpusをFable 5に近づける方法を試してみた

AnthropicのClaude Fable 5、すごいですよね。仮説の深さや設計の組み立てが一段違っていて、一度使うとなかなか戻れなくなります。ただ、Fable 5はOpusの上に位置づけられた最上位ティア(Mythos級)のモデルということもあり、コストや利用枠の都合で「普段の開発はOpusが主力」という方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、「手元のOpusをどこまでFable 5に近づけられるか」というテーマで、最近試している構成と、その裏付けを探して論文を漁った結果をまとめてみます。

Fable 5とOpus 4.8のあいだにある壁

Fable 5は、公式にもOpusより上位と位置づけられた新しいティアのモデルです。実際に使い比べると、コードが書けるかどうかというより、仮説の鋭さとか、検討の戦略性とか、「思考の質」の部分で差を感じる場面が多い印象です。

一方のOpus 4.8は、単体で使うと「あと一歩物足りない」と感じることがあり、SNSを眺めていても似た感想をちらほら見かけます。とはいえ、いつでもFable 5を回せる環境ばかりではないのが現実。このギャップを、モデルの外側の工夫で埋められないか? というのが今回の出発点です。

やったことはシンプル:Claude CodeとCodexの相互レビュー

試したことは拍子抜けするほどシンプルで、Claude Code(Opus 4.8)にCodexプラグインを入れて、OpenAIのCodex(GPT-5.5)と直接やり取りできるようにしただけです。そのうえで、こんな指示を出します。

Claude CodeとCodexで相互に議論しながら、設計とレビューを進めてください。

お互いに批判的なレビューをすること。実装はCodexに任せて、

最後にClaude側で人間向けの報告にまとめてください。

ポイントは、コーディングだけを外注するのではなく、設計の段階から相互批判に入れることです。

体感ベースの話になりますが、Opusの少し緩い素案に対して、別系統のモデルから容赦ない指摘が飛んでくると、その後のOpusの詰めが明らかに締まります。数字の見積もりの甘さを指摘されて自分から修正案を出し直してきたときは、「これ本当にさっきと同じOpus?」となりました。単体で物足りなかったはずのモデルが、ペアを組ませた途端に化ける感覚です。

「それ、気のせいでは?」と思ったので論文を漁ってみた

とはいえ、「AI同士で議論させると賢くなる」という話は昔からあり、正直このジャンルは体感と気のせいの区別がつきにくい領域です。そこで裏付けを探してみたところ、まさにこの疑問に正面切って答える論文がありました。

「Stop Overvaluing Multi-Agent Debate」(arXiv:2502.08788)は、代表的なマルチエージェント討論(MAD)手法5つを、9ベンチマーク×4モデルで体系的に評価した研究です。結論はかなり手厳しいもので、

  • MADは多くの場合、Chain-of-ThoughtやSelf-Consistencyといった単純なシングルエージェント手法に勝てない。しかも推論の計算量は余計に消費している
  • つまり「議論で賢くなった」ように見える効果の多くは、単にトークンを多く使ったことで説明できてしまう

と報告されています。ここで終わっていたら今回の構成も「気のせい」で確定だったのですが、この論文には続きがあります。著者らがさらに要因を調べたところ、モデルの異種性(model heterogeneity)だけは、既存のMAD手法を一貫して改善する「universal antidote(万能薬)」だったというのです。

理屈としても腑に落ちます。同じモデルを複数並べても、間違え方まで似てしまうので、議論させてもお互いの誤りに気づけない。系統の違うモデル同士なら、間違え方が重なりにくいぶん、相手の穴を突ける。ClaudeとCodexのペアは、開発元も訓練データの系統も違う、まさにこの「異種混成」の構成です。体感が研究の知見と一致していて、ちょっと安心しました。

先端では「協調のさせ方」自体を学習し始めている

調べていくと、この「異種モデルの協調」はプロンプトの工夫にとどまらず、協調のさせ方そのものを学習する方向へ研究が進んでいることも分かってきました。

代表格がSakana AIのTRINITYarXiv:2512.04695)です。約0.6Bという軽量なコーディネータ(プラス約1万パラメータのヘッド)を進化戦略(CMA-ES)で最適化し、複数のLLMに「Thinker/Worker/Verifier」の3つの役割をターンごとに割り当てて協調させる仕組みで、単体モデルや既存手法を一貫して上回り、LiveCodeBenchで86.2%を記録しています。

そしてこのTRINITYと、姉妹研究のConductor(どちらもICLR 2026採択)を土台に製品化されたのが、同社のSakana Fuguです。複数のフロンティアモデルを1本のOpenAI互換APIの裏で協調させる「Multi-agent System as a Model」で、[公式ページ]のベンチマークでは、Fugu UltraがSWE-Bench Proで73.7と、単体のOpus 4.8(69.2)やGPT 5.5(58.6)を上回っています。公式の説明には「Fable 5やMythos Previewと肩を並べる」とまで書かれています。

「異種モデルをうまく協調させると、単体の最上位モデルに迫れる」というのは、もはや個人の体感談ではなく、製品レベルで実証されつつある話なんですね。

さらにその先には、Cache-to-Cache(C2C)arXiv:2510.03215)という研究もあります。モデル間の通信をテキストではなく内部表現(KVキャッシュ)の直接受け渡しにする方式で、テキスト通信と比べて精度が約3.1〜5.4%高く、レイテンシは平均2.5倍速いという報告です。テキストに変換する時点で失われていた意味情報を、失わずに相手へ渡せるのが効いているようです。実際、モデル同士のやり取りのログを眺めていると、人間には読みにくい圧縮された文体で通信していることがあって、「テキストすら本当は要らないのでは」という方向性には妙な説得力があります。

ここまで来ると、「Fable 5自体も、裏で何かしらのモデル協調や統合をやっているのでは?」という想像もしたくなります。が、これは完全に妄想です。Fable 5の内部構成は公開されていないので、話半分でお願いします。

運用してみて分かったコツと注意点

数週間運用してみて分かったコツです。

  • 「批判的にレビューして」と明示する
    • 指示しないと、お互いを褒め合って終わることがあります。往復しても指摘が増えなければ意味がありません
  • 設計段階から相互レビューに入れる
    • 実装だけの外注よりも明確に効きます
  • 実装役は片方に固定する
    • 両方に書かせるとマージが地獄です
  • 最後の整形はClaude側にやらせる
    • モデル間のやり取りは圧縮された読みにくい文になりがちなので、人間向けの翻訳工程を挟みます

一方で注意点もあります。

  • 往復レビューのぶん、トークン消費と所要時間は確実に増えます。軽いタスクに使うと待ち時間が増えるだけなので、設計や仮説立案のような「検討の深さが効く」タスクに絞るのがおすすめです
  • 先ほどのMAD論文の教訓のとおり、効果が「増えた計算量のぶん」なのか「異種性のぶん」なのかは切り分けが難しいところです。重要な用途に組み込む前に、単体モデル+リトライ構成とのA/B比較で、自分のタスクでも効くことを確かめるのが安全です

まとめ

結論、「Opusは単体で戦わせない」に尽きます。

系統の違うモデルとペアを組ませて相互批判させるだけで、体感の出力の質はかなりFable 5側に寄っていきます。そしてこの方向性は、「異種性は万能薬」というMAD研究の知見とも、TRINITYやFuguのような「協調を学習する」最先端の流れとも一致しています。

Fable 5が使える環境ならそれが一番早いのですが、「Opusしか使えないから品質は妥協」と諦める必要はなさそうです。Codexプラグインを入れるだけなら数分で試せるので、興味のある方はぜひ。

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